桑原武夫『第二芸術 ----現代俳句について----』

俳句を第二芸術といい、学校の教育から俳句をしめ出してもらいたいと激烈に論じた桑原武夫『第二芸術 ----現代俳句について----』を読んだ。雑誌「世界」1946年11月号に発表されたものであり、他の論考7篇とともに講談社学術文庫にまとめられたものである。

俳句が作品として自立していないことの証左として作者名を記さないと、素人あるいは無名の人のつくったものと区別がつかないという。
それを例証するということで、10句は有名な俳人の句、5句は無名あるいは半無名の人の句をあげ、専門家の10句と普通人の5句の区別がつけられるかということで、作者を示さず15句あげてクイズ形式で挑んでいる。
あげられている俳人の名前を推測させるというのは難易度がさらに高い。
15句をプレバトのように順位をつけるというのは多分にどのような俳句観をもっているかによるし、ひょっとして素人の句が一位になるかもというスリリングな試みではある。
ただ、巻末に俳人の名前はしるされているが、桑原さんは無名と書いている人の作者名を記していないのは引用上、問題ありと思う。
以下の15句である。
1.芽ぐむかと大きな幹を撫でながら

2.初蝶の吾を廻りていづこにか

3.咳くとポクリッとベートヴェンのひびく朝

4.粥腹のおぼつかなしや花の山

5.夕浪の刻みそめたる夕涼し

6.鯛敷やうねりの上の淡路島

7.爰に寝てゐましたといふ山吹生けてあるに泊り

8.麦踏むやつめたき風の日のつゞく

9.終戦の夜のあけしらむ天の川

10.椅子に在り冬日は燃えて近づき来

11.腰立てし焦土の麦に南風荒き

12.囀や風少しある峠道

13.防風のこゝ迄砂に埋もれしか

14.大揖斐の川面を打ちて氷雨かな

15.柿干して今日の独り居雲もなし
3.は「咳くとヒポクリットベートヴェンのひびく朝」というのが誤植されて雑誌に発表されたという注が「追記」で書かれていた。

確かに優劣つけ難く、まして作者名の推測など至難のことだ。当時の俳人は簡単にこのクイズをクリアできたのだろうか。
俳壇においては党派性が重要であり、結社に所属しない人は少ないのだろう。そのサークルのなかでの句会で技術を向上させ、審美眼、対象は限定されるのだろう。文芸としての洗練はされても決して芸術作品としての自立にはならないのだろう。

といったところで、作者名を以下に示す。
1.阿波野青畝  3.中村草田男  4.日野草城  5.富安風生  7.荻原井泉水  9.飯田蛇笏  10.松本たかし 11.臼田亞浪  13.高浜虚子  15.水原秋桜子
11.臼田亞浪 以外は名前はしっている。

論のはじめのほうで、桑原さんの子供が国民学校で次の2つの句を習ったと書いている。
雪残る頂一つ国ざかひ  正岡子規
赤い椿白い椿と落ちにけり  河東碧梧桐
そうして実習で作った句として以下のものを紹介していた。
砂ぼこりトラック通る夏の道  
よく見れば空には月がうかんでる
さすがにこの2句が上記の15句に追記されたとしたら、無名作者の句と分かるだろう。そうして順位も最下位を争うだろう。私は月の句がトラックの句よりいいと思う。空にうかぶ月は意図しないとみることはない、花鳥風月はいまや「よく見ない」と認識すらしないということを批評的に詠んだ句として秀抜だ。

私は去痰剤が品薄になっているというニュースをみて次の句をつくった。
ムコダイン去痰の後に月をみる
これも同様に素人の句ということがすぐに分かるだろう。そもそもムコダインの販売開始年月は1996年10月なので、1946年の論考の俳句一覧にいれると新しいものであることがすぐに分かる。
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