寡分割照射法の臨床試験の結果

私は前立腺癌に対するIMRT/IGRT併用寡分割照射法の第II相臨床試験に参加している。
画像誘導技術を用いた1日1回2.5 Gy 28回照射、総線量70 Gy の強度変調放射線治療の日本人に対する安全性と有効性を確認する臨床試験である。研究費提供は厚生労働省である。

フォロー終了(予定)日は2019年12月31日で放射線治療科の主治医は昨年(2020年)末、浜松医科大の中村和正医師が論文を書いていて早晩発表されるだろうといっていた。

Google Scholar をときおり検索していたが、なかなか見出すことができなかった。発表、結構かかるなと思っていた。
ようやく学会(2021 annual meeting of the American Society for Radiation Oncology (ASTRO) 24.10.2021 - 27.10.2021 Chicago, Illinois, USA)で発表された。
A Japanese Multi-Institutional Phase II Study of Moderate Hypofractionated Intensity-Modulated Radiotherapy With Image-Guided Technique for Prostate Cancer - ScienceDirect
"Available online 22 October 2021."と書かれている。

筆頭著者は大阪医科大学の二瓶圭二(にへい けいじ)氏だ。
大阪医科大は臨床試験には参加していないが、二瓶氏が大阪医科大着任前の都立駒込病院での参加による発表だったのだろう。
きちんと論文で発表されてから記事を書こうかなとおもったが、長くまち、結果をしることができたので、とりあえずこの学会発表の概要と他のIMRT治療の結果を示し、感想を書こうと思う。

20病院が参加し計 134人
低リスク  20人 (15%)
中間リスク 80人 (60%)
高リスク  34人 (25%)

中間リスク、高リスクの患者には、4~8か月間のネオアジュバント・ホルモン療法(HT)が認められ、HTは121人(90%)に使用された。

結果(5年)
PSA非再発率 90.4%
臨床的非再発率 93.8%
全生存率 94.5%

臨床試験の評価項目は次のとおりだ。
主要アウトカム評価項目 遅発性有害事象発生割合
副次アウトカム評価項目
 急性期有害事象発生割合、生化学的無再発生存割合、臨床的無再発生存割合
 全生存割合
有害事象の発生割合は以下のとおりだ。

5年後のグレード2/3以上の有害事象発生率
消化器系 5.3%/0%
泌尿器系 5.3%/0%

急性毒性
消化器系 3.8%/0%
泌尿器系 4.5%/0%

結論として以下のように書かれている。
本試験では、主要評価項目が満たされ、寡分割 IMRTの安全性と有効性が確認され、日本人前立腺がん患者の標準治療の一つとして受け入れられた。
全生存率 94.5%というのは以外に低い。またPSA非再発率 90.4%というのも極めて優秀な結果とはいえない。
臨床試験参加条件として高リスクの場合NCCNリスク因子一つのみと限定されていて高リスクの人数は少ないにも関わらず全体の非再発率が90.1%というのは高い数値ではなく、少しがっかりだ。論文でのリスク分類毎の非再発率、の発表を待つしかない。特に中間リスクがどうだったかが一等興味ある。
PSA非再発率がそう高くなかったのはもしかして高リスクにおいてネオアジュバント・ホルモン治療を実施しなかったのが影響しているのかもしれない。

治療法比較3であげた岐阜大学の田中秀和氏の論文をみてみる。
full textを参照する。

計 1091人
低リスク  205人 (18.8%)
中間リスク 450人 (41.2%)
高リスク  345人 (31.6%)
超高リスク 91人(8.3%)

5年
PSA非再発率 91.3%
臨床的非再発率 96.2%
全生存率 99.1%

有害事象に関してはこう書かれている。
5年後の追跡調査における消化器系および泌尿器系の毒性(グレード2以上)の累積発生率は、それぞれ11.4%と4.3%であった。
岐阜大の場合、高リスクには以下の患者がいる。
T3b 39人(3.6%)
T4 9人(0.8%)

これは臨床試験の適応条件、(高リスク因子(T3a, 20< PSA =<30, G=8,9)の一つのみを有する高リスク前立腺癌)と比べると症状の重い患者を治療している。

いずれにしろ、治療後7年経ち、非再発の状態でいることは臨床試験の結果に関わらず、諒としなければならないだろう。

…… 投稿後に追記
寡分割照射を行っている病院は現在いくつかある。
がん研有明病院
東京都立駒込病院

がん研有明病院は定位放射線治療(SBRT:Stereotactic Body Radio Therapy)での治療も可であるが高リスクは中等度寡分割照射(28回照射)のみの適応とのことだ。

東京都立駒込病院では高リスクの場合、「ホルモン療法はIMRT後も継続し、原則として2年間実施」とのことだ。

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この記事へのコメント

  • gettingbetters

    同様にTRIP試験があったかと思います。
    その後 結果のフィードバックなどがあったのかご存知でしょうか?
    2021年10月31日 16:07
  • 石葉眞

    gettingbetters さん
    コメントありがとうございます。

    TRIP臨床試験は高リスクの小線源のトリモダリティ治療においてホルモン治療の期間が短期と長期を比較するランダム化比較試験です。
    私の受けた臨床試験はランダム化比較試験ではなく、日本人に対する寡分割照射の安全性を確かめる臨床試験です。目的は異なります。
    https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000004807

    フォロー終了(予定)日は2019年09月01日ですので、その結果はそろそろ学会発表、論文で発表されるでしょう。具体的には私はそれらを確認していません。

    ホルモン治療の期間は次の臨床試験を報告する論文をみると以下のとおりです。
    短期:放射線治療終了まで6ヶ月
    長期:放射線治療終了まで6ヶ月、その後、2年
    https://bmccancer.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-2407-12-110
    2021年11月01日 08:20