ロボット支援手術の失敗例?

鋭いだけではなく、柔らかなユーモアを含むブログ記事を書かれているブルーコバトンさんのブログのダビンチによる手術、失敗例か?という記事を読んだ。

「前立腺がんセミナー 患者・家族の集い 2017 東京」の動画公開よりリンクされている中村修三氏の講演今も続く前立腺がんとの戦いについてをもとに書かれている。

中村氏の治療の概要を整理してみる。
前立腺がん確定時(2010年8月)の年齢、病期など

年齢:63歳
PSA:4.3
グリーソンスコア:4+3
病期:不明
陽性率:2/8

2010年11月
先進医療のダビンチの存在を知り、T医科大学病院 1) に転院(N医師)2)
神経温存手術の希望を医師に伝えたが、最終的にそうだったかは不明
2011年2月にダビンチによる手術

PSA推移及び治療経緯
2013年8月までは0.1未満
  8月 0.2 PSA再発
 11月 0.5 再発確定

TBSIクリニックに転院(H医師)3)
転院後
2014年2月~4月 救済放射線治療 (IMRT) 2Gy 36回 計 72GY
2013年12月19日〜2014年7月14日 ホルモン治療
PSA 0.01未満
その後増減はあったが、
2016年4月 0.51
 7月 1.89 ホルモン治療開始
 7月23日 PET/CT 
 8月 胸椎に10ミリの影を確認 骨転移
 9月〜 IMRT 3Gy 20回 計 60Gy
 10月 PSA 0.11
 12月 PSA 0.94 ホルモン治療再開
2017年
 3月 PSA 0.01未満
 6月 PSA 0.25

この後、病理報告書を提示している。

1.2011年2月10日付(全摘手術の翌日)
pT2c EPE0 RM0 ly0 v0 pn1 sv0

2.2015年3月16日付訂正病理報告書
(病院長宛の苦情書を提出した後、提出されたものとのこと)
pT3b EPE1 RM1 ly0 v0 pn1 sv0

表記の意味は以下のとおり。
EPE1 癌が前立腺周囲組織に進展する
RM1 癌が切除面に存在する (断端陽性)
sv1 精嚢浸潤を認める
pn1 神経周囲浸潤を認める

その他の病理報告書の表記に関しては浸潤進展度の表現を参照のこと。

と長々と講演をきき、データ等を転載した。
ここで、講演者が一等問題だとしている病理診断の誤りについてこのようなことが起きるのか不思議だった。病理診断の不一致に書いたように病理医によってその診断が異なるのは事実だ。サイトに書いた文を転記する。
前立腺周囲組織への進展、精嚢浸潤、リンパ節転移及び断端陽性の正確な一致率はそれぞれ、82.5%、97.6%、99.6%、87.5% という結果だった。
多く手術を行う病院及び最近の病理診断では中央と高い一致率である。
ただ、このような浸潤に関して大きな違いがあるのは考えられない。
大学病院では一人ではなく、クロスチェックは行われていると思うが、実に不思議な話だ。 4)

ブルーコバトンさんのブログでの動画をみての感想3、「T医科大学病院は病理検査の結果を術後翌日に出すものか。早すぎはしないか。責任者のチェックはしないのか。」というのは普通の病院と比べるとそういえる。ただ、国内屈指の豊富な病理医スタッフを有し、超特急の処理速度で迅速に診断を行いクロスチェックを行った結果かもしれない。
先にあげた前立腺周囲組織への進展、精嚢浸潤、断端陽性3つが診断が異なり陰性が陽性となったということで、本当に不幸な事例だたかもしれない。

ブルーコバトンさんは「私なら病理検査の誤りで、適切な救済的治療が受けられなかったと主張し、T医科大学病院に支払った治療費用の返還を求めますね。」と書いている。
適切な救済的治療が受けられなかったということはTBSIクリニックの治療に関してはそうだったかもしれない。
しかし、手術後、精嚢浸潤が分かったとしてすぐに放射線治療、すなわちアジュバント放射線療法を開始しただろうか。

サルベージ放射線療法と術後アジュバント放射線療法の比較及びSWOG 8794 とガイドラインで術後アジュバント放射線療法について書いた。「SWOG 8794 とガイドライン」では前立腺癌診療ガイドライン 2016年版前立腺癌診療ガイドライン 2012年版 を比較した。2016年版では「特に精嚢浸潤例に対しては,術後アジュバント放射線療法が推奨される。」となっているが2012年版では特にそのような記述はない。
2011年の段階で精嚢浸潤が分かったとして主治医は即、放射線治療を勧めたかどうか極めて疑わしい。主治医が勧めないとしたら、医師に対して遠慮していると窺える講演者が希望するとはとても思えない。
といったところで、多分に(私の推測ではあるが)実際に辿った治療経緯と異なったとは思えない。

ただ、TBSIクリニックは術前の画像データしかないにもかかわらず、画像を撮らず救済放射線治療を開始したとするとそのようなものかどうか私には分からない。
PSA再発した場合、臨床再発したかどうかの確認は私が患者ならば要求すると思う。


1) 腺友倶楽部の姉妹サイトである腺友ネット:掲示板の注意事項である「事例説明においては、病院名、医師名などの固有名詞は控えてください。 推測できる程度の表記はかまいません。」に従っての表記であろうが、推測すると2011年11月に国内初『ロボット手術支援センター』を開設した病院であろう。

2) N医師はスタッフ紹介で姓がNで始まるのは二人であり即特定は難しい。

3)話より私が2016年10月30日のブログに書いた病院と医師であろう。クリニックが開業されたのは2013年12月なので開業後すぐの患者になったということだろう。

4) 推定する病院の病理診断科のページにはこう書かれている。
国内屈指の豊富な病理医スタッフ
16名の医師(日本病理学会病理専門医12名、日本臨床細胞学会細胞診専門医9名)が各々の専門分野における能力を生かしながら、全臓器の疾患に対応した高レベルの病理診断を遂行しています。
徹底した精度管理
全症例に対してダブルチェックを行い、正確で迅速な病理診断を実践することにより、質の高い医療に貢献できるよう万全の体制で臨んでいます。
5) 日本泌尿器科学会 ガイドライン・取扱規約のページからリンクされているガイドライン一覧【2017年10月】より

-----以下2017/11/04に追記
手術70日後放射線治療を実施、併せてホルモン(カソデックス)治療を2カ月行ったが2年後PSAが上がった人の質問があった。
参加者からの質疑等
PSAがあまり下がらず、術後PT3bだったので放射線治療を開始したとのことだ。
PT3bという病期が放射線治療開始の一つの契機だろうか。

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