治療法の選択 高リスクの場合_IMRTと小線源を比較して

ブログでは治療法の選択 高リスクの場合という記事を書き、サイト上で比較表をいろいろ追加し、最終的には比較表を高リスク患者特性その3としてまとめた。愛知がんセンターの富田氏の論文のfull text を昨日手に入れたので、そのデータを追加した。
すでに掲示板では高リスク 治療法の選択 外照射(IMRT,VMAT)と小線源の比較と題して投稿している。
東京大学がRotational IMRTの方法の一つであるVMATで治療を行っているということで少し長い表題となったが、ここではIMRTという言葉を用いる。
今まで書いたことと重複にはなるが、改めて掲示板投稿の記事に補足して書いてみる。

比較表をまとめた動機

高リスクには高線量で治療することが可能な小線源療法に外照射とホルモン療法を併用する「トリモダリティ治療」が一番ということを掲示板では沢山の人が書きこんでいる。また例えば、東京医療センターの矢木氏は同様なことを高リスク前立腺がんでも根治が可能なトリモダリティ治療とは? | がんサポートでいっている。
海外の論文のデータはさておき、調べた日本の論文のデータでそのようなことがいえるのか、また実際、手軽に小線源療法に外照射とホルモン療法を併用した治療を受けることが可能か検証(ま、それほどおおげさなものではないが)してみようと思った。

対象

小線源
高リスク前立腺がんで、トリモダリティーを積極的に実施している施設 前立腺がんの小線源療法 日本メジフィジックス株式会社でページが作成されたときに最初に掲載された3つの病院とさらに追記された徳島大学及び掲載はされていないが、日本で最初に小線源治療を行った東京医療センターであり、いずれも患者属性は確認できたものである。

IMRT
治療法比較3で患者属性が確認できたもの

比較表

比較表の項目

高リスクのリスク因子の数と患者数における割合(%)、複数リスク因子をもつ患者がどの程度多いかをみるために各々の割合を足したものを治療法比較3の表に追加したものである。

表記の仕方他

外照射、小線源で各々、T3の患者の割合の多い順に並べている。
奈良県立医科大のリスク分類はD'Amicoである。

リスク因子の患者の数、割合は以下のように記す。
病期がT3以上:T3 n(%)
GSが8以上:GS n(%)
PSAが20を超える:PSA n(%)
ただし、論文によっては20以上の場合の数を書いている場合があるがその場合もその数値を記す。

c3.jpg

表からみえること

IMRTは小線源に比べて、圧倒的に症状のおもい患者を治療している。すなわち、それは病期T3以上の患者の割合の多いこと、また高リスク因子数総計(%) 1) が小線源より大であることからそのことがいえる。

PSA非再発率に関して、総じて小線源のほうがいいと思われるが、T3以上の患者の割合及び複数 リスク因子の数をもつ患者の数が小線源のほうがIMRTより少ない。
すなわち、小線源と外照射のPSA非再発率の差はそう大きいものではないとみてとれる。それはIMRTのほうがリスクの高い患者の治療を行っており、結果としてPSA非再発率も低い値となっている場合もあると思われるからだ。

患者属性をみると小線源がIMRTより優位であることはいえない。
「高リスク前立腺がんで、トリモダリティーを積極的に実施している施設」といっても論文でみる限り、T3患者を積極的に治療しているとも思えず、また複数のリスク因子をもつ患者を積極的に受け入れているとは思えない。それは結果としてせっかく、病院へいっても治療をしてもらえない場合があるかのではないかと想像できる。

IMRTは病期で制限されるという話はきいたことはなく、論文でのデータでもそうなっている。IMRTで治療可の病院は各県に少なくとも一つはあり、そういった面では地域に限定した治療ではない。

トリモダリティ実施病院は多くないという記事を書いた。
TRIP臨床試験を元にした小線源治療可能病院の一覧であり、TRIP臨床試験の対象は 臨床病期T2c が入っているので、T3となると治療可能な病院は少なくなる。2)

結論

高リスクに対して小線源がお勧めの治療とはいえなく、高リスク(特にT3以上、複数のリスク因子をもつ場合)の場合、治療法としてIMRTを選ぶ方が無難である。

ただし、「自宅からの距離はあまり考えず、遠くても、いい病院で治療を受ける」という考えをもち、小線源を希望する場合は、滋賀医科大一択かもしれない。


1)高リスク因子数総計(%) が大きい場合はリスク因子を複数もつ患者が多いということがいえる。

IMRTは149~180、小線源は128と172 であり、PSAに関する情報が未記載で値がはっきしない場合が多い。
小線源の場合、IMRTの一番少ない値149になるのはPSAが20以上の患者の割合が80%ほどになる必要があり、そのようなことはあまり考えられず、滋賀医科大学を除いてIMRTより値は低いと思われる。

2)高リスク前立腺がんで、トリモダリティーを積極的に実施している施設 前立腺がんの小線源療法 日本メジフィジックス株式会社が開設されたのは2016年3月15日であり、一年以上たっても病院数は二桁にはいっていない。
日本においてトリモダリティーを積極的に実施している病院は多いといえないことの一つの証左であろう。

-------2018年12月29日に追記
現時点では新規患者として滋賀医科医大を受診することは不可能なようなので、関連する部分を見え消しとした。

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この記事へのコメント

  • 浜っ子1959

    2014年11月PSA高値が判明後、ブログを拝見している者です。

    (1)4 北海道大学のリスク因子「PSA」人数137は誤入力ですね。

    (2)個人的な相談を受けてくださいますか?
      今週、3回目の生検で病期T3の告知を受けました。
      紹介先の大学病院で希望するのであればトリモダリテイ治療も
      可能と説明され、IMRT一択の気持ちが少し揺れてます。  
      小線源治療数は通算1,000症例を越えている病院です。
     
    2017年06月10日 11:58
  • 浜っ子1959

    度々のコメントをお許しください。

    当記事を読んだのは告知直後(PSA18.58 T2a)でT3は視野に無い
    状態で表のリスク因子PSA人数ばかり意識していました。
    翌日、紹介状とMRI画像を観た大学病院の医師にT3と修正されました。

    今、記事を読み直しましたが「結論」で充分理解出来ました。
    どこの病院か? 生検HIT数(少ない)は? PSA推移は? 等々
    ご要望があれば、返信します。

    2017年06月10日 18:33
  • 石葉

    浜っ子1959 さん
    コメントありがとうございます。
    掲示板への理不尽なIMRTのPSA非再発率に関する投稿に対して対応
    http://6307.teacup.com/cap87090/bbs/8882

    していましてお返事遅くなり、すみませんでした。
    また、間違いの指摘ありがとうございました。先ほどサイトは修正しました。
    画像の更新は明日以降となります。

    個別相談といったものは特に対応してはいないですが、私が患者の身で論文などエビデンスを営々と書き続け、今回、少し踏み込んだ記述をして、それがなんらかの参考になったとしたら、その仔細は是非しりたいと思います。
    個別の病院名などはコメント欄にかくことはあまり望ましいとも思いませんので、サイト
    http://flot.blue.coocan.jp/cure/

    に公開していますメールアドレスまでメールいただければ幸いです。
    stflage(at)sky.707.to
    (at)を@にしてください。
    すなわち stflage@....... です。
    メール アドレスをフルに書きますと 迷惑メール収集ツールにひろわれる可能性ありますので上記の記載でご了承願います。

    .to はトンガに割り当てられているccTLD(国別トップレベルドメイン)です。

    少し変なアドレスと思いますが、これで届きます。
    2017年06月14日 20:26
  • 石葉

    浜っ子1959 さん

    追伸です。
    メールでのやりとりを希望しますのは、病院名含めての情報のやりとりは公開しないほうがいいという理由だけでなく、メールの内容により、さらに私がブログで書いたことより踏み込んだこと(お役に立つと思われるもの)を書くのはメールのほうがいいかなと思ったからです。
    2017年06月15日 05:34
  • 浜っ子1959

    眞さんからのコメント返信があったことを今日の夜知りました。

    来週、「骨シンチ」「造影CT」。そして再来週、結果を外来で説明
    という日程となっています。
    強い不安に襲われ今日は精神科に定期通院以外の予定外通院に行って
    きました。返信コメントに気がつかなかった事情をお察し頂ければ・・

    その後
    (1)選択枝から除外していた手術も?
      ・がん研有明病院 高リスク/局所進行がんに対する広範前立腺
       摘出術で高リスクの約半数は根治が期待出来る。
       (局所進行T3が含まれるか?)
      ・東京医科歯科大学 泌尿器科HP
    ①最近の知見では、手術単独でも少なからぬ方が治ると・・
       ②放射線(中略)ホルモン併用で、生存率が改善するという・・
        何れも結論としては、現在では比較的多くの方が10年以上癌を    抑制する事が可能となっています。
        ①>②と私には感じられ。

    長くなりそうなので、一度ここで書き込みます

    2017年06月16日 21:49
  • 浜っこ1959

    ずれていて申し訳ありません。

    (2)X線のリスクについて
      「ジャパンキャンサーフォーラム 唐澤久美子」でユーチューブ
      を検索し、東京女子医科大学の唐澤医師の講演を観ました。

      ・2015年10月28日公開の17分48秒~
       「正常組織許容線量」として 睾丸5~15Gy 腎23Gy
    筋肉100Gy 尿管75Gy でありそれを超えると1~5%の有害・・

      ・2016年11月10日公開の42分52秒~
       前立腺癌のIMRT外照射が歴史を積むにつれ、二次癌の報告が 
       されている。治療効果は変わらないが 陽子線>IMRTが望ましい。

    (3)トリモダリテイ の安全性?
      漂流さんが掲示板に掲載された BED換算 カナダ=211 滋賀>220
      という強い線量が小線源治療と外照射の期間を空ける事だけで
      安全性確保出来るのか?
      滋賀と東京/埼玉のT3病期の受け入れ基準の違い(後者は初期のみ)
      に現れているように思えます。
      
      埼玉のHPに
     小線源110Gy+外照射45Gy=相当する外照射100Gy
    小線源130Gy+外照射45Gy=相当する外照射110Gy
      各々がBED換算では何Gyになるのでしょうか?

      又、10年前の資料ですが私が転院した大学病院では
      小線源の本数は前立腺の大きさで決まる。
      20~30ミリリットル程度の患者が多く、平均80本の
      線源を入れている。

      大きさが22程度の私には80本以下が適用となると・・
      仮に80本として、外照射45Gy(1.8×25回)と合算すると
      BED換算では何Gyになるのでしょうか?

      お教え頂ければ幸いです。

      メールは明日になりそうです。
      引きこもり歴13年、Windows10でのメール経験が無く。。
      今日は久々の外出もあり限界です。   
      
    2017年06月16日 22:42
  • 石葉

    浜っ子1959 さん
    再度のコメントありがとうございます。
    たくさん書かれていますので、BEDに関してこの欄に書きます。

    BEDに関してはサイトにいくつか記事を書いています。
    外照射
    http://flot.blue.coocan.jp/cure/BED.html

    小線源
    http://flot.blue.coocan.jp/cure/bBED.html

    小線源に関しても特に難しい数式ではなく、四則演算です。
    ただ、α/β を2で計算しています。
    http://flot.blue.coocan.jp/cure/memo/gl1.html

    で書きましたようにα/β値は1.5 という値をいれると小線源+外照射のBEDが外照射より圧倒的に高線量だといわれていますが、その差は少し縮まります。

    上記の小線源のBEDに書きましたように小線源のBED計算式はStock 氏の論文に載っているものでそれが本当に正しいかどうかは私には分かりません。

    小線源の場合、単純に線源の本数といったものに比例するのではなく(照射量が異なるものが存在するようです)小線源治療後1カ月後の D90 の値による計算ということのようです。

    D90 は前立腺体積の90%に照射されている線量

    メールお待ちしています。
    2017年06月17日 20:13
  • 石葉

    浜っ子1959 さん
    もう一点、質問に答えます。

    >がん研有明病院 高リスク/局所進行がんに対する広範前立腺
    >   摘出術で高リスクの約半数は根治が期待出来る。
    >   (局所進行T3が含まれるか?)

    このがん研有明は以下の一覧表
    http://flot.blue.coocan.jp/cure/memo/outcome3.html

    38 の山本氏の論文に詳細が記されていると思います。
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22457326

    10年PSA非再発率 高リスク  48.5%

    full text
    https://academic.oup.com/jjco/article-lookup/doi/10.1093/jjco/hys043

    より 対象 189 人中 Table1をみますと
    T3b 22人 (11.6%)
    T3a  63人 (33.3%)

    ということのようです。
    2017年06月17日 20:52