「前立腺が動くから外照射は不正確」のルーツ

泌尿器外科 Vol.28 臨時増刊号 第79回 日本泌尿器科学会東部総会記録集に掲載されている東北大の川崎芳英氏他の「Intensity-modulated radiotherapy( IMRT) 後のPSA failure 症例からみたハイリスク前立腺癌への治療戦略」からIMRTに関する線量に関することを紹介する。
線量に関しては、合併症の増加を考慮すると86Gyが限界とされる。特に前立腺直腸間脂肪の少ない日本人にとっては、もっと少ないと思われる。 1)
藤野邦夫『前立腺ガン 最善医療のすすめ』実業之日本社には執拗に以下のように書かれている。
P.149
現在の日本ではIMRTをもっていても、80グレイを照射できる技術をもつ施設はわずかしかないだろう。
P.209
IMRTの照射能力は80グレー以上とされるが、現在の日本で80グレーを照射できる技術をもつ施設はわずかしかない。
日本人は前立腺直腸間脂肪の少ないということで照射線量の限界は86Gyより小さい値なので、80Gy以上の照射が行われていないのは、できないのではなく、合併症の増加を考慮し、やらないと思われる。

藤野氏は上記の日本人特有の理由をまったく知らないから、執拗に書いていると思われる。

ということは既にサイトにハイリスク前立腺癌への治療戦略に書いた。今日、改めて本件含め気になる記述があったので再度書いた。

『前立腺ガン 最善医療のすすめ』の治療例としてあげられている滋賀医科大学の2. 前立腺癌小線源治療とは | 前立腺癌小線源治療学講座 | 滋賀医科大学に次のように書かれている。
前立腺は腸管の動きや膀胱内の尿量によって位置が刻々と変化するために、外部照射のみで照射を行う場合どうしても微妙な位置のずれが生じてしまいます。そのため、前立腺周囲の組織への照射がどうしても避けられず、高い線量を照射しようとすると放射線に特に弱い直腸や、膀胱の粘膜、皮膚などで放射線障害がおこることがあります。こういった理由から最新の外部照射装置である強度変調放射線治療 (IMRT)をもちいた外部照射でも、せいぜい80Gy以下の放射線しか当てることができません。
あれ、どこかでみたことのある文だ。藤野氏が何度もしつこく言及した前立腺が動くから外照射は不正確であるという論説だ。このことに関しては、藤野邦夫『前立腺ガン 最善医療のすすめ』について その2 - 前立腺が動くから外照射は不正確?及びサイトのIMRT/IGRT併用に対する前立腺の動くことの影響でIMRT/IGRT併用での照射では特に問題ないことを示した。

滋賀医科大の文では外照射の条件を特にあげず、前立腺の位置のずれが放射線障害が起きることの原因となることがあるといい、そのことより「IMRTでも80Gy以下の放射線しか当てることができない」といいきっている。

上にあげた日本人の体格の特性があることは多分しってはいるかと思うが、言及するわけはなく、さらに、IMRT/IGRT併用で特に問題ないことも承知はしていると思うが、おかしげな論理展開で外照射を謗っている。

それでは、滋賀医科大学の岡本氏は藤野氏の著作を参考にしたのだろうか。そんなばかな話はあろうはずはなく、藤野氏が治療例の患者に関することで、岡本氏にインタビューした際に得た情報から再三にわたり、外照射のことを劣った治療法という論を著作に散りばめることになったと思われる。

1) Eur Urol. 2008 Jun;53(6):1172-9.

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