今回、1病院ではあるが、もう少し詳しい情報がabstractに記述されている慶應大学の論文 1) の概要をまず紹介する。
267人の患者が対象
総本数 19,236 本
19,236 本中 91本(0.47%)が移動
267人中 66人 (24.7%)のシードが移動
69本(0.36%)、54人(20.2%)胸に移動
7本(0.036%)、 6人(2.2%)腹部に移動
15本(0.078%)、15人 (5.6%) 骨盤に移動
移動した患者とそうでない患者との間にD90(前立腺体積の90%に照射されている線量)について有意差はなかったと書かれている。
多くても数本の移動だからこのような結果になったかと思われる。ここで、以前から疑問に思っていることを書く。まずは被膜外湿潤にも小線源が対応可ということに関してから。
奈良県立医科大学の田中宣道氏は前立腺がん治療を考える上で大切なことという講演で論文 2) を提示し、このようにいっている。
被膜外浸潤の9割は5ミリ以内におこっている。小線源で5ミリのマージンをつけてあげるとその9割の被膜外浸潤は治療できる。掲示板ではひげの父さんこと武内氏が田中氏のようには根拠は特に示さず「高リスクでも完治するか?」と題された2014年8月26日の投稿で次のように書いている。
シード(線源)を前立腺の外周にそって配置すれば、浸潤のある範囲もほとんどカバーすることが可能なわけですが、これらのことは、あまり知られておりませんし、これをきっちりできる医療機関もまだ限られているのが現状です。シードは埋め込まれてまったく広範囲に移動したものを除いて動かないのだろうか。1ミリ2ミリは動くと考えのはごく自然なことだ。肺などに移動したシード以外はまったくピクリとも動かないという論文はあるはずはなく、そのようなことを調べる人もいないだろう。(あまり意味のあることとは思えないので)
とすると、計画ではきちんと届いていた被膜外浸潤に対して、動いたことで少し線量が弱くなった可能性は大いにありうる。もちろん、それがどの程度の影響かわからないし、事実は大きく動くもの以外はピクリとも動かないのが医学的真実である可能性も否定はできない。
しかし、いずれにしろ、シードはある確率で動くことは事実であるし、その影響は高リスクの治療に影響あるかもしれないと思うことは素人の談義としては成立するかと思う。
以下 詩のようなもの
シードの脱出
前立腺は異物を排斥しようとする
シードは思う
どこか遠くへいきたい
目指すのは 肺、それとも腹部のどこか
(心臓でないことを祈りましょう)
安住の地では密やかに放射線を放つ
体外にいったシードの行き先は知らない
1) Sugawara A et al. Radiat Oncol. 2011 Oct 5;6:130
2) Teh BS et al. Cancer J. 2003 Nov-Dec;9(6):454-60
-------------------
以下16時40分に追記
株式会社メディコンの2013年1月の連結型シード線源の発売に関するプレスリリースに本稿に関係する情報が記述されていた。
・前立腺がんの治療機器『バード ブラキソース システム』を新発売 連結型シード線源により、シードの移動軽減に期待
次のような記述がある。
従来品で起こりえる術後の合併症として、体内でのシード線源の移動が挙げられます。これは前立腺の周囲を走行する多数の血管によるもので、シード線源が前立腺内だけでなく、肺、骨盤腔等、まれに心臓へ移動することもあります。従って、米国では、年間約35,000例行われている密封小線源療法の約70%において連結型シード線源が使用されています。J-POPSの論文では" by using loose seeds"と記述され、東京医大は" free 125I transperineal brachytherapy."と書かれていて、慶應大も"with loose (125)I seeds"と書かれているのですべて連結シードは使用していない。
プレスリリース内での文章だが、「シード線源が前立腺内だけでなく、肺、骨盤腔等、まれに心臓へ移動」と書かれているので、遠いところに移動したものを除き他のシードがピクリとも動かないということはありえないことが分かる。
日本における現在の連結シードの普及率はどのくらいなのだろうか。
ブログ村に参加しています。クリックお願いします。

にほんブログ村
この記事へのコメント
Gettingbetters