現状では、トリモダリティは高リスク群Aにたいするもっとも確実とされる治療法だが、実施している施設は多くない。高リスク群Aの患者は情報を集めて、トリモダリティの実績をつんだ高い技術をもつ病院を捜さなければならない。このような病院はこの本に載せられている病院以外、その3ー3での文献 2)の論文に載せられている国立病院機構埼玉病院及び奈良県立医科大学ぐらいしか私には思いつかない。藤野さんはもっとたくさんの病院をご存じだということだろうか。いずれにしろ限られた病院に集中すると、半年以上待ちの時間が発生するし、限られた病院でしか治療を行っていないので、他県の病院へいくことを躊躇する人には対象外である。最善の治療といっても、最適の治療ではないといえる。
しかし、治療法を決めた一番の理由に書かれているように”より高い線量を照射することで非再発率や局所コントロールに優れる” というトリモダリティに納得し、「最初にどの治療を選択するかによってその後の全てが決まる」という言葉を肝に銘じ、自信を持って遠方からの治療に専心し、なおかつその後、そのことをネットで広報する人がいる(多い?)ということはそう、心が平安となる優秀な治療なのでしょう。
それは、藤野さんのいう高リスク群Aに対してトリモダリティ治療を選択し、実績をつんだ高い技術をもつ病院を捜し、遠いことを厭わず治療を受ける人はえりーとの患者といえるかと思う。
さて、藤野さんの先ほど引用した文の前には以下の文がある。
現在、高リスク群にたいするホルモン療法の適切な期間を検証するために、術前3か月+術中3か月=6か月のホルモン療法を受けた患者に、さらに2年間のホルモン療法を追加して、有効性と安全性を確かめる臨床研究がおこなわれている。ここで高リスクと書いているが、藤野定義の高リスクでないことに注意を要する。そもそも、高リスク群A(PSAが20以上で、グリソンが8以上)などという特別な定義で臨床試験が行われるわけはないが。
該当する臨床試験、TRIP試験には選択基準として以下のように書かれている。
1) PSA値、臨床病期、中央病理診断のグリソンスコアから本試験の対象とする高リスク群に分類される前立腺癌症例金沢大学の小中弘之氏の論文 1)には次のように書かれている。
下記3因子のうち1つでも満たす症例を高リスク群とする
1 前治療CAB開始前のPSA値20 ng/mL超
2 臨床病期T2cまたはT3a
3 中央病理診断のグリソンスコア8以上
TRIP試験の対象症例はD'Amicoの高リスク症例にNCCNガイドラインで定義されている高リスク症例を含めたものである。
この論文に書かれていたTRIP試験に参加した病院は48、患者を登録した病院は37であった。このことは、上記の定義の高リスクの患者に対してトリモダリティ治療を実施している病院は確実に48あったが、延長された臨床試験登録の期間(2010年10月~2013年3月)内に適格な患者を登録できた病院は37ということだ。
なお、登録患者数は349人だった。
この病院に関して、TRIP試験登録病院ということで紹介した。この中で登録人数5以上の病院を表としてまとめた。この表と藤野邦夫『前立腺ガン 最善医療のすすめ』について その5ー3で言及した小線源治療数上位病院の表をあわせた表を作成した。なお、小線源治療数上位病院の表は2013年の小線源治療数30以上の病院の表であり、藤野さんのいう「せめて年間にそれぞれの治療法を40~50例」は満たさないにしても現在の小線源治療数を考慮すると妥当な数値だと思う。
これを高リスク小線源治療可病院その2にまとめた。以下に表を転載する。
なお、2010、2013の数値はそれぞれの年のすべてのリスク群に対しての治療数であり、登録数はTRIP試験への適格登録数である。

病院数、26というのはそんなものかと思う。TRIPで定義された高リスクの患者でトリモダリティを希望する人は高リスク群Aと異なり、それなりの病院数はある。しかし、北海道、九州地区は0である。
最善の治療は限られた病院でしか受けることができず、近くで「高い技術をもつ病院」を探すのはとても大変だ。
それでも、最善の治療を求めて(最善とみなす根拠は縷々述べたように希薄だとしても)「自宅からの距離はあまり考えず、遠くても、いい医療機関を探す」努力が必要だということだろう。
なお、上記の自宅から云々は、【前立腺がん】先輩患者からのアドバイス 医師まかせにしないで“選択力”を身につけて:がんナビに書かれているひげの父さんこと武内務氏の「セカンドオピニオンの選び方のコツ」よりの引用である。
私はこのような考え方はとらなかったということを最後に書いておく。
1) 小中弘之*1他 進行中の多施設共同オープンラベルランダム化比較試験 (TRIP試験)
泌尿器外科 28(8): 1437 -1440 2015
*1金沢大学大学院医学系研究科集学的治療学
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以下 3月22日 追記
更新日:2016年3月15日ということで、日本メジフィジックス株式会社のサイトに以下の情報が掲載されていた。
・高リスク前立腺がんで、トリモダリティーを積極的に実施している施設
掲載されているのは昭和大学江東豊洲病院、滋賀医科大学、奈良県立医科大学であり、私が本稿でいった病院に含まれる。更なる情報が望まれる。
ただ、「積極的に」という意味がよく分からないが、高リスク、とりわけT3の患者及びリスク因子2以上の患者も無条件にトリモダリティーを実施している病院ということならば、これ以上増えることはないかと思われる。
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以下 5月2日 追記
なお九州地区に関しては、TRIP試験には参加していないが、北九州市戸畑区の戸畑共立病院がT3含め高リスクに対して小線源治療を実施している。前立腺密封小線源治療 | がん治療 | 戸畑共立病院を参照のこと。
上記リストにも(更新日:2016年4月22日)に追記された。
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以下2016年11月24日 追記
北海道に関しては、高リスク前立腺がんで、トリモダリティーを積極的に実施している施設に(更新日:2016年11月14日)札幌医科大学医学部 放射線医学講座が追記された。
前立腺癌密封小線源放射線治療 of 札幌医科大学医学部 放射線医学講座
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以下2017年2月9日に追記
九州地区に関しては、トリモダリティーを積極的に実施している施設に(更新日:2017年2月6日)ということで、前立腺がん密封小線源療法(ブラキセラピー) | 熊本赤十字病院が追記された。
なお熊本赤十字病院はTRIP試験には参加しているが、TRIP試験登録病院で示したように登録件数は1件である。
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以下2017年11月21日に追記
更新日:2017年11月15日ということで横浜市の済生会横浜市東部病院、泌尿器科 | 済生会横浜市東部病院が追記された。
……2021/11/13に追記
NMP社の情報がリンクエラーとなるので、NMP社の小線源治療可の病院の情報は消えたでアーカイブのページのリンクを示した。
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