始めて藤野さんの本に出合った経緯はその1に書いた。そのときは今のように熟読、解読したわけではないので、ご多分にもれず、「トリモダリティ すごい、小線源 最高」という言説に今だからいえるが、「毒された」。
実際、私の前立腺がん chronicleに書いたように生検後、敗血症にかかったこともあり、主治医から手術は勧められず、また小線源もあまりおすすめでないといわれ、がっかりした。
確かに小線源治療は優れた治療の側面をもつが、藤野本の書き方は極端であり、ちと問題であるということには薄々気づいていたが、これほどとは思わず、これは私一人でしまっておくには「モッタイナイ」と思い、今までネットで調べてこと(その検索の方法含め)をふまえ、このような長文の見苦しい文を書き連ねることとなった。
この行為で完全に私は藤野本の呪縛より開放されたと思う。
もちろん、この本の影響を受け、小線源治療はいいと思い、治療を受ようとする人に対して、どうこういうつもりはまったくない。
近藤 放置理論とは違い、がん治療に関して重大な害となっているとはいえないからだ。
といういささか長い前置きの後、続ける。
P.164より「ブラキとほかの治療法の比較」ということで論をすすめている。「3つの図表による比較」ということで、まずCiezki氏の論文 1) の図を示している。この論文は私のサイトの外照射、手術、小線源の比較で2015/01/10に紹介している。国立病院機構東京医療センター斉藤史郎氏の「治療効果が高く体への負担も少ない小線源治療とは」という表題のビデオでその存在をしったものだ。なお、本では(7年間)と書いているが、斉藤氏は8年間といっている。この図を紹介した後、次のように書いている。
このグラフによれば、3つの方法(ブラキ、外部照射、手術)が低リスクに限れば、いずれも優劣のない成績をあげていることが分かる。現在のブラキの治療成績は、先端的施設では、当時にくらべてはるかに高い線量を使用するので、図3にみられるように差は開いている。図3はGrimm氏の論文 2)からのものである。2000~2012年の論文を元に分析したもので、低リスクは対象患者数は100人以上のものである。Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)のDaniel E. Spratt氏の論文 3) は1997~2008の患者、1002人を対象にし、86.4 G で照射したIMRTによる治療で下記のようなPSA非再発率であるが、発表年が2013年なので、Grimm氏の論文の対象外である。
7年PSA非再発率
低リスク 98.8%
中間リスク 85.6%
高リスク 67.9%
外照射においても先端的な施設ではこの図3にプロットすると低リスクに関してかなりいいところにいくのではなかろうか。
図 2 は最近のアメリカの前立腺ガンの治療成績 と題された表である。
5年後の治療率ということで、外照射の場合、MSKCC:メモリアル・スローン・ケタリング・がんセンターの値が記されている。
75.6~86.4 Gy 照射の場合
低リスク 90%
中リスク 70%
高リスク 47%
ムムム、どっかで見た数値だ。その6-2で検索したZelefsky氏の2001年の論文 3) の値と全く同じだ。
Zelefsky 氏あるいは他のMSKCCの人が筆頭著者として論文を発表していたとして、偶然同じ値をなった可能性もあるが、各々のリスク分類でこのように数値が一致するのは普通に考えてありえない。
図4として東京医療センターの5年PSA非再発率のグラフと数値を載せている。
低リスク 98.9%
中間リスク 95.1%
高リスク 85.6%
そうしてこう書いている。
ブラキ単独の治療だった低リスク群で、PSAが上昇したのは、わずか、1.1%だった点がとくに注目される。北海道大学の清水伸一氏の2014年の論文 4) では5年PSA非再発率は低リスクで100%である。
出版された時点では小線源治療の成績が公表されていたのは東京医療センターぐらいしかなく、Grimm氏を筆頭とするProstate Cancer Results Study Group のデータをもとに小線源の優位性をいうのは仕方がないところはある。しかし、やはり日本の病院で比較しなければあまり意味はない。現在は私の調べた範囲でも日本の医療機関、30ほどの論文(東京医療センターの複数発表の論文含む)が発表されている。
それを私はサイトの治療法比較及び治療法比較2にまとめた。治療法比較では、PCRSGに似せた図も作成した。是非、みていただきたい。
みていただくと、必ずしも小線源治療が最善の治療ということがこの表からいうのは難しいかと私は思う。
1) Ciezki JP, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2004 Dec 1;60(5):1347-50.
2) Grimm P et al. BJU Int. 2012 Feb;109 Suppl 1:22-9. full text
3) Zelefsky MJ et al. J Urol. 2001 Sep;166(3):876-81.
4) Shimizu S et al. Radiat Oncol. 2014 May 21;9:118.
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