藤野邦夫『前立腺ガン 最善医療のすすめ』について その6-2 恣意的な論文の引用

藤野邦夫『前立腺ガン 最善医療のすすめ』について書きすすめ、終わりは近づいたかどうか、ふと不安になる。

今回は論文に関しての記述で少々、煩わしいところもあり、私のサイトにアップしてもいいが、前回からの継続性を考慮し、本ブログへの投稿とする。一般書なので、どこからの情報か原論文等を正確に参考文献としてあげていないのは仕方がないが、それが不正確であっていいわけはなく、恣意的であっていいはずはない。

P.149~P.150にこう書かれている。少し長くなるが引用する。
現在の日本ではIMRTをもっていても、80グレイを照射できる技術をもつ施設はわずかしかないだろう。もうひとつの大きな問題点は、低リスクの前立腺ガンでさえ、80グレイでは十分に根治できない可能性があることが明らかにされたことにある。
アメリカのメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKCC)のDr.マイケル・ゼレフスキーは中リスクと高リスクの患者を対象に最高で81グレーを照射しても、12%の患者に前立腺ガンがのこったことを、2001年に明らかにした。
MSKCCは、いまでは86グレイ以上の線量を照射しているが、日本には、そこまでの技術をもつ施設はないのではなかろうか。以上のデータから考えると、外照射だけで前立腺ガンを根治しようとする選択には不安がつきまとうように思われる。
Zelefsky 氏の論文に関して言及するまえに「12%の患者に前立腺ガンがのこった」ということに関してコメントする。何年PSA非再発かわからないが、中・高リスクでPSA非再発率 88 % というのはそう悪い数値ではないと思う。本の中で日本の事例として唯一データをだしている東京医療センターの場合、P.169によると、5年PSA非再発率は中間リスクで95.1%、高リスクは85.6%である。中・高あわせて88%なので、中リスクだけに限っていうと88よりいい値となり、高リスクは88より悪い値となると思われるが、このデータだけで、「外照射だけで前立腺ガンを根治しようとする選択には不安」ということはいえない。
そもそも、「低リスクの前立腺ガンでさえ、80グレイでは十分に根治できない可能性がある」ということの論拠として、MSKCCの中リスクと高リスクの患者を対象にした最高で81グレーの照射の論文は不適切だ。「低リスクは80グレイでは十分に根治できない」というのは何をもってそういっているのか全く分からない。
この2点の指摘だけで十分であるが、原論文を探索してみよう。
PubMedで"Zelefsky MJ[Author] "で検索し、Sort by First Author でソートする。2001年でZelefsky氏が筆頭著者になっている論文はHigh dose radiation delivered by intensity modulated conformal radiotherapy improves the outcome of localized prostate cancer.と題されたものしかない。
この論文は75.6Gy以上の外照射で紹介したが、 "75.6 to 86.4 Gy" と "64.8 to 70.2 Gy" を比較したものである。それだけでは何なのでもう少し説明する。
・ 1988年~1998年の 3D-CRTまたはIMRTで治療されたT1c-T3の患者 1100人が対象
・ 5年PSA非再発率
  低リスク  64.8~70.2 Gy 77%
        75.6~86.4 Gy 90%
  中間リスク 64.8~70.2 Gy 50%
        75.6~86.4 Gy 70%
  高リスク  64.8~70.2 Gy 21%
        75.6~86.4 Gy 47%

よりよいPSA非再発率をめざすには75.6 Gy 以上で照射しましょうという話だ。
「MSKCCは、いまでは86グレイ以上の線量を照射している」と書いているが、この2001年の段階では既に86.4 Gyを照射していて論文として発表している。

2001年ではなく、2000年、または2002年かもしれないかと調べたが、2000年の論文は従来の3D-CRTとIMRTとを比較した臨床試験の結果報告である。
2002年の3本のうち可能性のあるZelefsky MJ et al Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2002 Aug 1;53(5):1111-6.を少しみてみる。

・1996年4月から2001年1月の限局性前立腺がんの患者 772人 が対象
・698人は81.0 Gy、74人は86.4 Gy で照射
・3年PSA非再発率
  低リスク  92%
  中間リスク 86%
  高リスク  81%

この論文のほうが可能性ある。これはabstractからの情報なので、full textには81.0 Gy照射の場合の非再発率のことが書かれているかもしれないが、$30.00 USD を払うほど、ゆとりのある生活をしているわけではない。
論文の年を間違えるとはどうしてなんだろうか。どうせ、原本を調べる人なんかいないと思っているのだろうか。それが確認できたとしても81.0 Gy、86.4 Gyあわせた3年PSA非再発率は上記であり、以下の結論と違うことを藤野さんが書くのはMSKCCのデータということで外照射に否定的な言説の補完としているとしか思えない。

CONCLUSIONS:
These data demonstrate the feasibility of high-dose IMRT in a large number of patients. Acute and late rectal toxicities seem to be significantly reduced compared with what has been observed with conventional three-dimensional conformal radiotherapy techniques. Short-term PSA control rates seem to be at least comparable to those achieved with three-dimensional conformal radiotherapy at similar dose levels. Based on this favorable risk:benefit ratio, IMRT has become the standard mode of conformal treatment delivery for localized prostate cancer at our institution.

Google 翻訳
結論:
これらのデータは、多数の患者における高用量IMRTの実現可能性を実証します。急性および後期の直腸毒性が著しく、従来の三次元原体照射法で観察されたものと比較して減少しているようです。短期のPSA制御率は、同様の用量レベルで三次元原体照射で達成されるものと少なくとも同等であるように見えます。この有利なリスクに基づく:便益比、IMRTは、我々の施設で限局性前立腺癌のためのコンフォーマル治療配信の標準モードとなっています。

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以下、3月17日追記
藤野邦夫『前立腺ガン 最善医療のすすめ』について その2にP.209の文を引用したが、その文も含め長くなるが引用する。同じことを何度もいうと真実になると思っているのだろう。その根拠が脆弱なものということは気にしないのだろう。
IMRTの照射能力は80グレー以上とされるが、現在の日本で80グレーを照射できる技術をもつ施設はわずかしかない。さらに放射線治療医などが綿密な治療計画を立てたとしても、IMRTには信頼しきれない問題がある。
それはメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKCC)から発表されたように、80グレー以上の外部照射では低リスク群の患者にたいしてさえ、完璧な治療にならないことがあるからで、これにくらべればブラキ単独の治療のほうがすぐれている。
まして中リスク群や高リスク群の患者では、IMRTで長期的にみて良好な成績をあげることができるかどうかは、今後の検討課題とならざるをえない。
じっさいの問題としてはIMRTでも合併症が心配され、直腸側にそんなに高い線量を照射することができない。だから経験の少ない多くの施設では、直腸側に低い線量を照射することになし、直腸側にあったガンが再発する結果になるという専門家もいる。
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以下、3月24日追記
論文は私の最初に探したものであっていた。論文の発表年を間違えているかもと言う指摘は撤回する。
関連することがらを含めて藤野邦夫『前立腺ガン 最善医療のすすめ』について その6-2 補遺に書いた。

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