藤野邦夫『前立腺ガン 最善医療のすすめ』について その2 - 前立腺が動くから外照射は不正確?

藤野邦夫『前立腺ガン 最善医療のすすめ』について その1でまえがきの手術に対してちょっとどうかと思う文について紹介した。今回は前立腺が動く臓器だということで、外照射を謗る文をいくつか書いている点に疑問を呈する。
P.140
もうひとつの問題点は、前立腺が狭いスペースで、たえず動く小型の臓器だということにある。前立腺が息をしたり、しゃべったりしても動くだけでなく、膀胱や腸の内容物の量によっても、つねに位置を変える。このため、からだの外側から前立腺を照射する外部照射は、正確さという点で制約を受けざるをえない。
P.150
最後に正確な外部照射がもつ弱点を指摘しておこう。それは前立腺が動きやすい臓器であるため、照射する範囲をしぼりこめばしぼりこむほど、目標をはずすリスクが高まることである。これでは再発率が高くならざるをえない。
P.210
IMRTの最大の特徴は精妙な照射だが、前立腺は動きやすい臓器なので、ひとたび狙いがはずれると、その特徴が裏目にでてしまい、所記の効果を期待できなくなる。
この後、「照射をより正確にするIGRTという試み」という表題で金マーカー埋め込み含め方法を紹介しているが、最後に「これらの試みで理論どおりに理想的な照射ができるかどうかは、長い時間をかけた検証が必要になる」という一文で終わっている。次に「IMRT専用のトモセラピー」という表題でトモセラピーを紹介し、「合併症のリスクが低いので、余病のある人や高齢者には好適だろう」と書きながらも、以下の文で終わっている。
さらに五億円もする高額な医療機器だけに、使いこなすのに高い技術が要求される上に、長期的な良好な治療結果があげられるかどうかは、まだわかっていない。
それでは、小線源治療において以下に書かれている熟練した操作 [1] を行える医師は多いのだろうか。
P.189
前立腺が動きやすいうえに、ニードルを刺入すると動いたり変形したりするので、医師は熟練した操作と確認の作業をつねに要求される。
どうも、外照射に対するバイアスのかかった文が多いと思われる。

掲示板に対しての初投稿した直後(7時間後)に投稿された文は藤野さんと同じように前立腺が動くことをいい、小線源治療を勧めるものだった(掲示板のページのアドレスは後記する)。
その後、肺がんに対しての分子追跡放射線治療装置の研究開発を投稿したが、どうして前立腺がんに対しては「動くがん病巣の位置をリアルタイムに把握し、追従しない」のか疑問に思っていた。

本日、検索しみつけた江戸川病院放射線科の浜幸寛氏の論文 [2]は意義深いものだった。
立ち読みで1ページのみしか読めないが、こう書かれている。
照射直前に画像でターゲットの位置を正確に微調整することにより,照射中の位置ズレをおおむね3〜5mm以下に抑えることが可能になっている。ターゲットを外すことなく,正常組織の被ばくを最小限に抑えるためには,マージンを可能なかぎり最小にする必要がある。それを可能にするのが,IGRTである。
「CyberKnife」や「Novalis」(ブレインラボ社製)などでは,照射中にリスク臓器やターゲットの移動を観察し,動体追跡を行うことができるので,照射中に排ガスされた場合にも,速やかに位置のズレを補正することが可能である。しかし,肺がんや肝臓がんなど呼吸性移動が無視できない臓器では,動体追跡の手法は威力を発揮するが,前立腺がんのように動きの小さい臓器では,その役割は限定的と言える。
前立腺がんに対するIMRT では,照射前に可能なかぎり排ガスを促し,照射中の排ガスを抑制することで,ターゲットの位置ズレを許容範囲内に抑えることが通常可能である。
小線源治療を行う医師も前立腺が動くことより小線源の優位性をいっている場合がある。
医師
(1)「治療効果が高く体への負担も少ない小線源治療とは」 斉藤 史郎氏 (国立病院機構東京医療センター 泌尿器科) 2013年
(2)【前立腺がん治療を考える上で大切なこと】 田中宣道 氏(奈良県立医科大学・泌尿器科 准教授) 2015年

個人 
・上に記した掲示板の投稿の例
詳細に書く。
私の初投稿の際、治療法に迷っていると投稿したわけでもないのに、斉藤氏のビデオをみての話か藤野さんの本を読んでのことか分からないが、実に不可思議な投稿だった。もちろん、私はその時点で小線源治療に関してセカンドオピニオンをもとめる気はまったくなかったが、まだ、私の前立腺がん chronicleに書いたIMRT/IGRT併用で治療を始める前だったので、かなり動揺した。善意での投稿だとは思うが、投稿自体、気分のいいものではなかった。

といった長い前ふりの後にアドレスを書く。
2014年8月25日投稿
治療方法も決めておられるのに横から失礼ですが、最近は再発を防ぐには低リスクであっても照射線量が必要という流れになっています。しかも前立腺は結構動くので位置決めしていても外部照射では逸れる可能性が高いです。

IMRTでも海外では80~85Gyの照射をするところが増えていますが、国内ではそこまで照射できる技術レベルの病院は少ないかと思います。

ご病状からすると内部照射(小線源)が良いと思うのですが如何でしょうか?
IMRT云々に関しては、藤野氏の以下の記述からかと思う。
P.209
IMRTの照射能力は80グレー以上とされるが、現在の日本で80グレーを照射できる技術をもつ施設はわずかしかない。
いずれにしろ、藤野氏の本の影響の大きさに驚く。

今日は、江戸川病院の放射線科部長の浜幸寛氏の論文、一部だが、読むことができてよかった。1年半近くのモヤモヤした気分が晴れた。



[1] 小線源治療の難しさを1978年に東大を卒業し、横浜で泌尿器科クリニックを開いている木村医師はブログで前立腺にまっすぐ針を刺すのは、片手でオニオンスライスを作るように難しいと書いている。

[2] 前立腺がんの最新放射線治療-画像誘導放射線治療(IGRT)-症例ごとに適したIGRT手法の選択をめざして 立ち読みで1ページのみ
浜幸寛 1), 中川恵一 2)
1)江戸川病院放射線科, 2)東京大学医学部附属病院放射線科
インナービジョン 26(3): 75 -77 2011

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